SPICE
LTspiceによるトランジスタ増幅回路 -固定バイアス回路の特徴編-
http://select.marutsu.co.jp/list/detail.php?id=151
今回は補足として、固定バイアス回路の特徴、特にその注意点について解説をします。
◎hFEのバラツキの影響
固定バイアス回路の特徴は以下のとおりです。
②温度に対する安定度が悪い
③hFEのばらつきが大きいと動作点が変わる
④簡単なセットであまり忠実度を要求されないものに使用される
「固定バイアス回路」の欠点は②、③になり、一言で言えばhFEのばらつきが大きいと動作点が変化するということです。
トランジスタのhFEはばらつきが大きく、例えば東芝の2SC1815の場合、以下のようにランク分けしています。
Oランク : 70~140 | GRランク : 200~400 |
Yランク : 120~240 | BLランク : 350~700 |
図19にYランクを用い、その設計値をhFEのセンター値である hFE =180 での計算結果を示します。
設計値はhFE = 180 ですが、トランジスタのばらつきは120~240の間です。
Min=120,max=240での計算結果を表1に示します。
Vcc、RB、VBEは一定値ですから、hFEが変わってもベース電流IBも一定値です。
例えば、hFE = 120ではコレクタ電流はベース電流を120倍したものが流れますので、Ic = hFE × IB = 120×5.55μA=0.666mAです。
その時のコレクタ・エミッタ間電圧VCEは電源電圧VccからRcの両端電圧を引いたものです。
Rc両端電圧は 0.666mA×2.2kΩ=1.4652V となり、VCEは 5V – 1.4652V = 3.5348V になります。
このようにhFEの値により、コレクタ電流が変化し、これにより動作点のVCEの値も変化してしまいます。
このことは、出力信号を大きくしようとすると波形がひずむことになります。
図20のこの時の波形を示します。
◎安定係数S
トランジスタは周囲温度により
ICBO | : | コレクタ遮断電流 |
VBE | : | ベース・エミッタ間電圧 |
hFE | : | 直流電流増幅率 |
などが変化し、これにより動作点(動作電流)が変化します。
この変化により、場合によっては動作不良になる可能性があります。
例えば、常温(23℃近辺)ではうまく動作していたものが、夏場または冬場では動作しなかったり、セット内部の温度上昇(つまり、これによりトランジスタの周囲温度が変化)によっても動作不良になる可能性があります。
この変動要因によるコレクタ電流の変動分を考えてみます。
コレクタ遮断電流ICBOを考慮したコレクタ電流Icを図22に示します。
(2-1)式を見ると、コレクタ電流Icは
hFE | : | 直流電流増幅率 |
Vcc | : | 電源電圧 |
VBE | : | ベース・エミッタ間電圧 |
ICBO | : | コレクタ遮断電流 |
RB | : | バイアス抵抗 |
の影響を受けることが分かります。
この中でVccおよびRBは一般的に固定値ですから、この部分は温度による影響はないものと考えます。
これ以外のhFE、VBE、ICBOは温度により影響を受け、これによるコレクタ電流Icの変動分をΔIcとすれば(2-2)式のように表わされます。
この式の意味は、例えば (∂Ic/∂ICBO)ΔICBO はICBOの変化分に対するIcの変化量を表しています。
これを「ICBOに対する安定係数」と言い、記号S1を用いて S1 = ∂Ic/∂ICBO と表現します。
◎安定係数計算例
図23に各安定係数の計算例を示します。
各安定係数の値が分かりましたので、周囲温度が変化した場合、動作点(コレクタ電流)がどの程度変化するのか計算してみます。
基準は周囲温度を25℃とし、これが45℃になった時のコレクタ電流変動値を計算します。
★各項目の変化量
2SC945のデータシートによると25℃でのICBOは0.1μAです。
これが45℃になると25℃の値の4倍と読みとれます。
したがって、変化分ΔICBOは0.3μAです。
VBEは一般的に約-2mV/℃~-2.5mV/℃ですが、-2.3mV/℃とすれば、20℃の変化で-46mVです。
hFEの変化率は2SC945などでは約1%/℃なので、20℃の変化で36になります。
この結果から、「コレクタ電流を1mAに設定したものが温度上昇20℃の変化で約0.26mA増加」します。
つまり、Ic = 1.26mA となり、約26%の増加です。
表2に各安定係数での変化率を示します。
表2 各安定係数の変化率
S1 | 約5% |
S2 | 約1% |
S3 | 約20% |
各安定係数での変化率を比較すると、 S3 > S1 > S2 となり、hFEによる影響が支配的です。
この例では温度変化に対する変化分を求めましたが、別な見方をすれば固定バイアスはhFEの変化による影響を受けやすい方式です。
例えば、2SC1815のYランクは120~240の間ですが、hFEを180として設計したとしても±60のバラツキがありますから、これによるコレクタ電流の変化は約33%になります。
この例ではYランクでの変化量を求めましたが、GRランク(hFE範囲200~400)などhFEが大きいと、VCEを確保することができなくて動作しない場合があります。
以上、固定バイアス回路の安定係数について解説しました。
一言で言えば、固定バイアス回路はhFEの影響が大きく、実用的ではないと言えます。
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LTspiceによるトランジスタ増幅回路 -固定バイアス回路の特徴編-