2016年02月23日

SPICE

LTspiceによるトランジスタ増幅回路 -固定バイアス回路の特徴編-

以前公開したLTspiceによるトランジスタ増幅回路 固定バイアス編では、SPICEを用いて増幅回路をトランジスタで構成する設計例を検討しました。
http://select.marutsu.co.jp/list/detail.php?id=151

今回は補足として、固定バイアス回路の特徴、特にその注意点について解説をします。

◎hFEのバラツキの影響

固定バイアス回路の特徴は以下のとおりです。

①回路が簡単
②温度に対する安定度が悪い
③hFEのばらつきが大きいと動作点が変わる
④簡単なセットであまり忠実度を要求されないものに使用される

「固定バイアス回路」の欠点は②、③になり、一言で言えばhFEのばらつきが大きいと動作点が変化するということです。
トランジスタのhFEはばらつきが大きく、例えば東芝の2SC1815の場合、以下のようにランク分けしています。

Oランク : 70~140 GRランク : 200~400
Yランク : 120~240 BLランク : 350~700

図19にYランクを用い、その設計値をhFEのセンター値である hFE =180 での計算結果を示します。
設計値はhFE = 180 ですが、トランジスタのばらつきは120~240の間です。
Min=120,max=240での計算結果を表1に示します。

160223-011-01

Vcc、RB、VBEは一定値ですから、hFEが変わってもベース電流IBも一定値です。
例えば、hFE = 120ではコレクタ電流はベース電流を120倍したものが流れますので、Ic = hFE × IB = 120×5.55μA=0.666mAです。
その時のコレクタ・エミッタ間電圧VCEは電源電圧VccからRcの両端電圧を引いたものです。
Rc両端電圧は 0.666mA×2.2kΩ=1.4652V となり、VCEは 5V – 1.4652V = 3.5348V になります。
このようにhFEの値により、コレクタ電流が変化し、これにより動作点のVCEの値も変化してしまいます。
このことは、出力信号を大きくしようとすると波形がひずむことになります。
図20のこの時の波形を示します。

160223-011-02

◎安定係数S

トランジスタは周囲温度により

ICBO コレクタ遮断電流
VBE ベース・エミッタ間電圧
hFE 直流電流増幅率

などが変化し、これにより動作点(動作電流)が変化します。
この変化により、場合によっては動作不良になる可能性があります。
例えば、常温(23℃近辺)ではうまく動作していたものが、夏場または冬場では動作しなかったり、セット内部の温度上昇(つまり、これによりトランジスタの周囲温度が変化)によっても動作不良になる可能性があります。

160223-011-03

この変動要因によるコレクタ電流の変動分を考えてみます。
コレクタ遮断電流ICBOを考慮したコレクタ電流Icを図22に示します。

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(2-1)式を見ると、コレクタ電流Icは

hFE 直流電流増幅率
Vcc 電源電圧
VBE ベース・エミッタ間電圧
ICBO コレクタ遮断電流
RB バイアス抵抗

の影響を受けることが分かります。
この中でVccおよびRBは一般的に固定値ですから、この部分は温度による影響はないものと考えます。
これ以外のhFE、VBE、ICBOは温度により影響を受け、これによるコレクタ電流Icの変動分をΔIcとすれば(2-2)式のように表わされます。

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この式の意味は、例えば (∂Ic/∂ICBO)ΔICBO はICBOの変化分に対するIcの変化量を表しています。
これを「ICBOに対する安定係数」と言い、記号S1を用いて S1 = ∂Ic/∂ICBO と表現します。

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◎安定係数計算例

図23に各安定係数の計算例を示します。

160223-011-07

各安定係数の値が分かりましたので、周囲温度が変化した場合、動作点(コレクタ電流)がどの程度変化するのか計算してみます。
基準は周囲温度を25℃とし、これが45℃になった時のコレクタ電流変動値を計算します。

★各項目の変化量

2SC945のデータシートによると25℃でのICBOは0.1μAです。
これが45℃になると25℃の値の4倍と読みとれます。
したがって、変化分ΔICBOは0.3μAです。
VBEは一般的に約-2mV/℃~-2.5mV/℃ですが、-2.3mV/℃とすれば、20℃の変化で-46mVです。
hFEの変化率は2SC945などでは約1%/℃なので、20℃の変化で36になります。

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この結果から、「コレクタ電流を1mAに設定したものが温度上昇20℃の変化で約0.26mA増加」します。
つまり、Ic = 1.26mA となり、約26%の増加です。
表2に各安定係数での変化率を示します。

表2 各安定係数の変化率

S1 約5%
S2 約1%
S3 約20%

各安定係数での変化率を比較すると、 S3 > S1 > S2 となり、hFEによる影響が支配的です。
この例では温度変化に対する変化分を求めましたが、別な見方をすれば固定バイアスはhFEの変化による影響を受けやすい方式です。
例えば、2SC1815のYランクは120~240の間ですが、hFEを180として設計したとしても±60のバラツキがありますから、これによるコレクタ電流の変化は約33%になります。
この例ではYランクでの変化量を求めましたが、GRランク(hFE範囲200~400)などhFEが大きいと、VCEを確保することができなくて動作しない場合があります。

以上、固定バイアス回路の安定係数について解説しました。
一言で言えば、固定バイアス回路はhFEの影響が大きく、実用的ではないと言えます。

LTspiceによるトランジスタ増幅回路 -固定バイアス編-はこちら

LTspiceによるトランジスタ増幅回路 -固定バイアス回路の特徴編-

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