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真空管式フォノイコライザーアンプの製作 製作編

◎CR型製作回路

真空管式フォノイコライザーアンプの製作 実験編 はこちらです。
http://select.marutsu.co.jp/list/detail.php?id=165

図22に回路を示します。
用いた真空管は12AT7です。
双三極管ですから、これをEQ素子後のアンプ部までを1本とし、3段目のアンプはL/Rで用います。
最終段のQ1はソースフォロワです。
手持ちの関係で2SK30Aを用いていますが、これにこだわる理由はありません。
後で気が付いたのですがバイアス抵抗R8,R9の定数が少し大きい気がします。
この部分は前段V3の交流負荷になり、増幅度に少し余裕があるので、ひずみ率の兼ね合いから定数を決めても良いと思います。

▽真空管【ECC81/12AT7】
http://www.marutsu.co.jp/pc/i/258648/

結局、3球+2石となっています。
真空管の本数は球(きゅう)で数え、3本なので3球(さんきゅう)です。
トランジスタ、FETなどは石(いし、またはせき)で数え、FETが2個なので2石(にせき)です。
J1入力直後の抵抗R1はバイアス供給を兼ねたMM型カートリッジの負荷抵抗です。
カートリッジは負荷抵抗値が推奨(指定)されています。
MM型は47kΩまたは50kΩなのでR1にて決めます。
J3はレコードプレーヤのGND端子用で、金属ケースへ接続します。
レコードプレーヤからはL/Rの信号以外にGND接続用のケーブルがあり、それをJ3に接続します。
電源は外部からDC12VをJ4またはJ5に供給し、どちらかのコネクタを利用して6BM8アンプへ供給します。
回路をあらためて眺めてみると、最終段に半導体(FET)を用いているのが惜しい気がします。
真空管と半導体の混在回路は昔のアマチュア無線機器でも見かけますので、それはそれで良いと思います。
カソードフォロワが使えないので、仕方なく半導体にしているわけです。
当初、この部分を簡単にトランジスタによるエミッタフォロワを考えていました。
動作的にトランジスタまたはFETのどちらでも良いのですが、せめて、真空管と同じ電圧制御デバイスのFETを採用しています。

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◎主な部品

抵抗は一般的なカーボン抵抗を用い、特にオーディオを意識した部品選択はしていません。
ただし、コネクタはすべて絶縁タイプとし、GNDループを作らないようにしています。
コンデンサも特にオーディオ用ではありませんが、EQ素子および0.1μFのカップリングコンデンサはフィルム系です。
表2に主な部品を示します。
ラグ板は立ラグです。
これを利用して抵抗、コンデンサなどを実装し配線します。
必要に応じて各極数を用意し、今回の場合、2、3、4極で配線することができました。

表2 主な部品

部品番号品名型番メーカー
ケース YM150 タカチ
VR1 2連ボリューム 10K,A R1610G-QB1-A103 Linkman
J6 φ3.5ステレオジャック MJ073H マル信
J4,J5 DCジャック MJ14ROHS マル信
J1 RCAピンジャック 白 MR699Gシロ マル信
J2 RCAピンジャック 赤 MR699Gアカ マル信
J3 アースターミナル T10 サトーパーツ
ラグ板 4極 L590-4P サトーパーツ
ラグ板 3極 L590-3P サトーパーツ
ラグ板 2極 L590-2P サトーパーツ
C2,C4,C5 マイラーコンデンサ 0.1μF EOL100P10J0-9 FARAD
Ca マイラーコンデンサ 0.01μF EOL100S10J0-9 FARAD
Cb マイラーコンデンサ 2200pF EOL100D22J0-9 FARAD

◎CR型の製作

★シャーシ加工と組み立て配線

写真3に板金工作用の作業台の様子を示します。
この作業台はなにかのレポートで登場していて、相変わらず散らかっています。
ボール盤が見えますが、シャーシの穴あけは電動ドリルで行っています。
写真4のように真空管ソケットの穴加工にシャーシパンチは必須です。
HOZANの製品ですが、もう40年以上使っています。
今回は丸穴だけなので作業時間は1時間もかかっていません。

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用いたケースはTAKACHIのYM-150です。
写真5のように黒のシャーシをひっくり返して、その上に真空管を実装する構造にしています。
リア側に入出力コネクタおよび電源コネクタを配置し、フロント側はボリュームと電源表示LEDです。
用いる真空管は12AT7または12AU7Aなどの双三極管なので、L/R合計で3本です。
写真5のように真空管ソケット用の穴が3つ空いています。

写真6はラグ板、コネクタを取り付けた様子です。
下に見える基板はソースフォロワ部配線用にユニバーサル基板をカットしたもので、金属スペーサで固定します。

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写真7に配線終了後の様子を示します。
用いた線材はUL1007のAWG24 各色です。
なるべく色分けを多くしたほうが配線ミスが少なくなります。
写真8は真空管ソケット部の様子です。
抵抗、コンデンサなどソケットのピンに実装できるものはなるべくピンを利用して配線します。
EQ素子部はラグ板に実装し、定数変更がしやすいようにしています。
真空管ソケットのピンは外側に広げて加工し、真ん中のピンはGNDに接続します。
組み立て配線に5時間ほどかかりました。
このようなセットを作る場合、事前に実体配線図を作っておくことが重要です。
(実体配線図、懐かしい言葉です)プリント基板またはユニバーサル基板を用いた製作と異なり、必要ラグ板の極数、穴位置などを事前に決めておかないと組み立て配線できません。
実体配線図を作る作業は慣れないと非常に面倒くさいものです。
手書きの図面で作成し、何度も書き直しをしています。
写真7のように部品点数はそれほど多くありませんが、実体配線図作成後は普段と異なる充実感がありました。

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◎評価

★チリチリノイズが出る

写真9、10に組み立て後のフロントおよびリアの外観を示します。
コンパクトに仕上がっています。

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オシロスコープにて簡単な波形チェックおよびRIAA特性を確認してからとりあえず音出しをしてみました。
まずはお気に入りのレコードで聴いてみます。
やっぱり自作はいいですね。
初めてCR型を製作したわりには悪くない音です。
ペアとなる6BM8との組み合わせではレコードによりますが、ヘッドホン使用時の適正音量はボリューム位置真ん中近辺です。
ボリュームを上げると、曲の無い箇所でノイズが出ていることに気づきました。
「チャリッ、チャリ、チリッ、チリッ」というような不規則のノイズです。
真空管に手を近づけるとノイズの様子が変化し、ハムノイズも発生します。
どうも真空管が周囲のノイズを拾っているように思われます。
写真9、10のように真空管はシャーシの上に載っているだけで無防備な状態です。
6BM8アンプなどのようにゲインが少ないアンプと異なり、EQアンプはゲインが高いです。
しかも、CR型ですから、EQ素子部のロス分を補うためにゲインを上げています。
試しに真空管を12AU7Aに替えてみるとチリチリノイズが減少します。
何本か替えてみるとノイズレベルに差があるのが分かりました。
12AT7に戻すとノイズレベルが上がるのはあきらかです。
ただし、冷静に考えてみると12AT7と12AU7Aのノイズレベルの差はゲインの違いであると思われます。
図22の回路で12AT7を採用したのは12AU7Aより5dBほどゲインが高くなったことを実験時に確認していたためです。
いずれにしても、真空管が回りのノイズを拾っているようです。
手元にあった四角の金属ケースを真空管部にすっぽり覆ってみると、チリチリノイズが消えます。
これで真空管にシールドが必要なことが分かりました。
このような不具合は経験していないと難しいものですね。

★ノイズ対策

真空管全体をシールドする金属ケースを検討することにしました。
箱の曲げをどうしたらよいか、固定をどうするかなどを考えるとかなり面倒です。
なるべく短時間で製作する方法がないか考えているうちに市販ケースを用いることを思いつきました。
手持ちの市販ケースの中からTAKACHIのMB-3がピッタリのようです。
写真11にMB-3を用いたシールドケースの構造を示します。
シャーシはそのまま利用し、カバーを加工します。
カバーは「コの字」型ですが、片面はシャーシ寸法にカットし、元々あった取付穴を利用してシャーシの片面をふさぎます。
もう一方のカバーは曲げ部分を短くカットしてアンプ本体のシャーシへビスを利用して固定します。
さらに、写真12のようにMB-3をひっくり返して元々の取付穴を利用してビス2本で固定し、これでシールドケースの完成です。
シールドケースの着脱は写真12のようにビス2本ですから、真空管の交換などで便利です。
シールドケースで真空管が見えなくなってしまい何の装置か分からなくなってしまいました。
真空管アンプは見た目が大切だと思いますが、仕方のないことです。

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★電気的特性

 チリチリノイズの問題が解消し、落ち着いたところであらためて電気的特性を測定しました。
(表3,4)ゲインは目標の25dBにほぼ近い結果ですが、LchとRchに差があり、1.5dBです。
真空管のバラツキが原因で、バイアス調整またはゲイン調整を付ければよかったかなと思います。
実は12AT7の手持ちが3本しかなく、ゲイン差が少なくなる組み合わせをした結果です。
このゲイン差については個人的に許容範囲ということでOKとします。
ひずみ率については事前に実験にて調整しています。
負帰還をかけないアンプの実力がどのようなものか比較機種がないので、こんなものかなと思います。
SN比の値については実際の試聴で評価したいと思います。
RIAA再生特性は抵抗、コンデンサに誤差±5%品を用いているのですが、ほぼシミュレーション特性に近い結果です。
つまり、高域での誤差がプラス方向に大きい傾向にあり、定数調整で誤差を少なくすることは可能です。
面倒なので個人的に許容範囲ということでこれで可とします。

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★試聴

ペアとなる自作6BM8アンプを用いてヘッドホンとスピーカで聴いてみました。
スピーカではノイズは分かりませんが、ヘッドホンではボリュームを上げると分かります。
普段、ノイズがほとんど聞こえないヘッドホンアンプを使用しているので、少し違和感があります。
ただ、慣れれば気にはなりません。
音に関しては少し言い過ぎかもしれませんが繊細な印象を受け、初めて製作したCR型にしては上出来と思います。
試聴しているうちに、用いるDC電源によってノイズが異なることに気づきました。
電源のハム成分は別としてそれ以外のノイズが異なります。
例えば、「ザーー」または「サーー」など大きさももちろん異なりますが音色がまったく違います。
SN比は53dBほどですが、数値で現れない差があります。
図22の回路では2200μFのケミコンが電源部に入っています。
当初、このコンデンサは入れていませんでした。
今回の組み合わせ用電源として6A容量の市販電源を考えていたのですがこの電源ではノイズ量が多いことに気づき、2200μFのケミコンを追加しています。
SN比に関してはそれほど神経質に考えることもないと思います。
それにしても電源の選択はむずかしいものです。
ちなみに6BM8アンプと組み合わせた場合、電源ON直後では5A近く流れ、真空管が落ち着くと約1.2Aの消費電流です。
ペアとなる自作6BM8アンプと並べた外観を写真13に示します。
真空管が隠れて見えないのが残念で、ボリュームが無いと単にケースを積み立てたようで少し情けなく思えてきます。
それでもこのシステムで十分に楽しんでいます。
ヘッドホンよりはスピーカで聴くほうが多いです。
6BM8アンプは出力1mWと、文字通りミリワットですが静かに聴くには丁度良いレベルです。
ちなみに使用スピーカはDENONのSC-F100、レコードプレーヤも同じDENONのDP-1600です。
仕事場の隅にYAMAHAのNS-1000Mなどの大型スピーカが置いてあるのですが、今回のようなミニアンプには小型スピーカが良く似合います。

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◎NF型の実験

CR型EQアンプの実験、製作を目的としていましたが、12Vの低電圧電源によるNF型ではどのような音になるのだろうかと興味がわき、NF型の実験を行いました。
実は12V動作では12AU7,12AT7などの三極管で得られるゲインは低いということが実験によって分かっていました。
この点からNF型は無理だと判断していました。
そこで実験を兼ねて、NF型を整理してみました。

★オープンループゲインが不足

NF型は負帰還アンプですから十分な帰還量が必要です。
言い方をかえれば十分なオープンループゲインが必要になり、図23に特性例を示します。
RIAA再生特性は低域が上昇する周波数特性ですから、この領域での帰還量が少なくなります。
これが不足すると低域での上昇が不足し、RIAA再生特性とのズレが多くなります。
今回は12Vでの低電圧動作なので電圧増幅度(オープンループゲイン)には限度があり、2段増幅では1KHzのポイントで実測45dBほどでした。
この状態でEQ素子を入れて負帰還をかけた時の特性は図24のように低域の上昇不足が予想されます。

頭の中で考えているだけでは仕方ないので実際に回路を組んで確かめることにしました。
図25にNF型の実験回路を示します。
V1による負帰還増幅のクローズドループゲインをなるべく少なくし、EQアンプとしての必要ゲインを補う目的でV3にて軽い負帰還増幅を行います。
図25では片チャンネル分しか表現していませんがデバイスの数はCR型と同じ3球+2石の構成です。
NF型への変更はデバイス構成が同じですから若干の回路変更で済みます。

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★電気的特性

NF型は負帰還回路なので、ひずみ率、SN比はCR型と比較しずいぶんと改善されました。
データは公開しませんが、ノイズに関しては自分では納得する結果です。
また、ゲインについてもチャンネル間誤差が0.2dBになり、真空管のバラツキに対しても吸収できているようです。
問題なのはRIAA再生特性で、表5に実測値を示します。
予想通り100Hz以下の低域では誤差が大きく、20Hz,50Hzなどは上昇していると言えないような特性です。
5KHz以上の帯域でも若干の誤差があり、EQ素子の誤差なのかオープンループゲインの影響なのかは分かりません。
いずれにしてもオープンループゲインの不足は低域特性に大きな影響を与えることが分かりました。
オペアンプなどのように大きなオープンループゲインを持っているデバイスと異なり、真空管の低電圧動作は難しいものです。
ちなみに汎用オペアンプのNJM4558ではデータシートから読み取ると、100Hzにおけるオープンループゲインは90dB、1KHzでは70dBです。
音は低域不足は別として、悪くはないのですが、なんとなく「素っ気ない」印象です。

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◎まとめ

12AU7A、12AT7などの三極管を12Vで動作させた場合、ゲインを大きくとれないのでNF型は難しいと思います。
今回のCR型は負帰還をかけていません。
他に図26のようにアンプ部を負帰還にする方法もあります。
ステレオですと6球構成になり、最終段アンプをバッファー代わりとすれば今回のソースフォロワ部が不要になってオール真空管構成が実現できます。
ちょっと大がかりな回路になってしまいますが、これは試してみる価値がありそうです。

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当初、真空管が見える構造でした。
製作経験が乏しいと、とんでもないものを作ってしまうもので、EQアンプなどではノイズ対策を考慮した構造が必要であることは勉強になりました。
自作6BM8アンプと今回のEQアンプの外観を見るとまったくペアになっていません。
いっそのこと、図27のEQアンプとメインアンプを統合したプリメインアンプのほうがすっきりしそうです。
EQアンプのアンプ部を無帰還にするか負帰還にするかは別として、ケース構造をどうするか難しいところです。

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以上、真空管式フォノイコライザーアンプの実験、製作をレポートしました。
真空管は本来、100V、200Vなどで動作させるもので、今回のような12V動作はかなり無理をした使い方です。
ただし、市販電源を用いることができ、感電の心配もありませんので手軽に実験、製作が楽しめます。
ちなみに、今回製作のEQアンプと6BM8アンプの部材費はほとんど手持ち部品を用いることができたので、両方合わせても5000円ほどでした。
特に、電源製作が不要なのでこの点が大きく、安上がりな趣味です。

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