デバイス

SA602Aを用いた50MHzクリコンの製作 -設計編-

◎SA602AというIC

以前からNXP社のSA602Aが気になっていました。

▽マルツオンライン RFミキサー【SA602AD/01.118】商品ページ

http://www.marutsu.co.jp/pc/i/100672/

このICのデータシートを初めて見た時に、シグネティックスのNE612にすごく似ているなと思ったものです。

NE612についてはご存じの方も多いと思います。
昔の雑誌などでNE612を用いた「ダイレクトコンバージョン受信機」の記事を良く見かけたものです。

図1のようにNE612はミキサーと局発回路を内蔵させたICで、SA602Aも同じブロックになっており、ピン配置も同じです。

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他にNE602というICもあったと思いますが、SA602A、NE612との違いは分かりません。

SA602Aの主な仕様を以下に記します。

・電源電圧 4.5V~8V
・消費電流 2.8mA(max)
・入力周波数 500MHz
・局発周波数 200MHz
・変換ゲイン 14dB(min) at45MHz
・パッケージ SO8

消費電流が2.8mAと少なく、電池動作が良さそうです。
電源電圧が4.5V~8Vですから、単3電池であれば3本(4.5V)または4本(6V)といったところが考えられます。

パッケージは面実装のSO8です。
ピッチは1.27mmですから、はんだ付けは難しくありません。

◎50MHzを28MHzに変換するクリスタルコンバータ

★SA602Aをクリコンに用いる

図1のようにSA602Aの機能はミキサーと局発です。
局発部はLC発振または水晶発振を構成することが出来ます。
そこで、局発部を水晶発振とすれば、簡単にクリスタルコンバータ(以下、クリコンと略す)を作ることが出来ます。

50MHzを28MHzに変換するクリコンを作りたくなり、SA602Aを用いることを思いつきました。

図2にクリコンのブロック図を示します。

局発部を22MHzの水晶発振とし、ミキサー出力を28MHzに同調させれば良いわけで、変換周波数を28MHzにした理由は、手持ちの水晶に22MHzがあったためです。
ずいぶん昔に、この周波数関係でクリコンを製作したことがあり、その時余分に購入した余りかもしれません。

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★システム図

クリコンを用いた50MHz帯受信システム図を図3に示します。
親受信機はお気に入りのFR-50Bです。

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◎回路

図4に回路図を示します。電源は単3×4本の6Vです。

データシートに近い回路です。

図2のクリコンブロック図から分かるようにイメージ周波数は6MHzです。
部品点数を最小限にしていますので、この点について少し不安なのですが、とりあえず、この回路で進めます。
局発部はC6,C7,X1による水晶基本波発振です。
C6,C7は水晶により定数を決定する必要があるのですが、用いた水晶の適正負荷容量が不明でしたので、とりあえず、C6 = C7 = 22pF として、設計、製作を進めることにします。
コイル(L1,L2)は手巻で、それ以外特別な部品はありません。

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◎コイルの選択

コイルに適当なものがありませんので、基板設計および製作の前に事前にコイルを製作し、確認しておくことにします。

★8mmφコア入りボビン

写真1の8mmφコア入りボビンを用いました。図5に底面図を示します。
5本の足(ピン)があり、、今回は図5 b ) の接続にしています。
写真1のように希望するインダクタンス(または同調周波数)となるように自分で線を巻きます。
コアを回すことにより、インダクタンスを可変することができます。

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◎グリッド・ディップ・メーターを利用

コイルを希望するインダクタンスとなるように手巻するわけですが、測定器が必要です。
今回は「グリッド・ディップ・メーター」を用いてみました。

写真2に外観を示します。
左はメーカー製で、現在、販売されていません。
右は筆者自作品で、電源を1つの筐体に収めることが出来ず、外付けです。

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★グリッド・ディップ・メーターの用途

グリッド・ディップ・メーター(以下、GDMと略す)は無線用の測定器(道具と言ったほうが良いかもしれません)で、主な用途は以下のとおりです。

①同調回路などの共振周波数の測定。
②未知のL,Cの測定。
③吸収型波長計。その他。

筆者がアマチュア無線を始めたころは、いくつかのメーカーで販売されていました。
現在、グリッド・ディップ・メーターを製造、販売しているメーカーは無いと思います。
なお、一般的には「ディップ・メーター」と言い、特に、真空管を用いたものをグリッド・ディップ・メーターと呼んでいます。

筆者が最初に購入したディップ・メーターは真空管ではなく、トランジスタを用いたものです。
取扱説明書を見ると「Tr ディップ・メーター」と表現されています。

GDMを使ったことがない方がほとんどと思いますので、以下、簡単に動作原理、使い方について説明します。

★同調回路の共振周波数の測定原理

図6に原理図を示します。GDMの中身を一言で表現すると「発振器」です。

真空管によるLC発振回路(コルピッツ)が主な構成要素で、発振周波数はバリコンを回すことで変化し、この時の周波数はダイアルの目盛で分かります。
また、これがGDMの最大の特徴ですが、発振回路のコイル(L)はケースの外に出ている構造です。
DC電流計はグリッドの発振強度を監視するメーターです。

例えば、任意の周波数でGDMを発振させ、コイルを被測定共振回路に近づけたとします。
この場合、GDMの発振周波数と被測定共振回路の周波数が一致していなければGDMの発振部は影響を受けませんので、メーターは変化があらわれません。
ここで、GDMの発振周波数可変用のバリコンを回し、同調回路の共振周波数と一致するポイントでGDMの発振部が共振回路により影響を受けます。
この場合、GDMの発振強度が弱まるのでメーターの針が下がります。

このメーターの針の下がり具合は急激に変化し、これを「ディップ」と言います。
ディップしたポイントでダイアルの目盛を読めば、それが共振周波数です。
図7にディップの違いを示します。

発振強度の監視はグリッドなので「グリッド・ディップ・メーター」と呼ばれます。

LC発振回路ですから、もちろん真空管ではなく、トランジスタまたはFETを発振に用いても良く、FETの場合、回路的にそのまま真空管に置き換えて、グリッドに相当するゲートを監視します。
トランジスタの場合もベースなのかなと思って、前述のメーカー製トランジスタ式の回路図を見ると、コレクタを監視する方式でした。

このようにFETまたはトランジスタでも良いのですが、ディップの様子(分かり易さ)が異なります。
最初に購入したトランジスタ式ディップ・メーターはディップ現象が分かりにくいものでした。(新品で購入した)

筆者は測定器を購入したのはアナログテスタが最初で、その次がSWRメータ、3番目がトランジスタ式のディップ・メーターだと思います。
図7 c ) のような感じで、どれがディップなのかさっぱり分かりません。

当時ディップ・メーターを使うのは初めてで、教えてくれる人もいません。
ディップが良く分からないので、トランジスタ式ディップ・メーターはほとんど使わなく、あまり良い印象はありませんでした。

写真2のメーカー製は20年ほど前に中古で購入したものです。
このGDMのおかけで「ディップ」を実感し、あらためてGDMの良さを知ることができ、写真2の自作品は雑誌の記事を参考にして作ったものです。
電源部が同じケースに収まらず不格好ですが、これでもディップ点は良く分かります。

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★コイル製作

文章では分かりにくいと思いますので、同調回路の共振周波数の測定を図8で説明します。

例えば前記図4の回路図において、アンテナ側の同調回路はC1,C2,L1で形成されます。
C1,C2は既知の値(47pFと220pF)ですが、コイルに何回巻けば50MHzに同調するか分からない状態です。

ボビンに線を巻き、コンデンサもはんだ付けします。
最初に共振回路をコイルに近づけないで、メーターが適当な位置となるようにボリュームを調整します。
ここでダイアルを静かに回していけば、どこかのポイントでディップがあります。
その時のダイアル周波数を読み、希望の周波数でなければ巻き数を加減して再度ディップ点を探します。

ディップが無ければ、他のバンド用コイルに差し替えます。

ここは経験とカンに頼るところがあるのですが、最初は少し多めにコイルを巻き、共振周波数が目的の周波数より低めにしておくと良いです。
つまり、共振周波数が低ければ巻き数を減らせば良いわけです。

巻き数を減らすことは簡単です。巻いた線をほどいて、再度はんだ付けすれば済むことです。
また、コアを回した時の周波数可変範囲も把握しておくと良く、周波数精度も大体で良いです。
このようにしてコイルを自作し、作業時間は30分もかかっていません。
GDMなので気持ち良くディップします。

あとは実際に基板に実装し、動作確認することにします。

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写真3に自作GDMのダイアル目盛を示します。
このGDMの目盛は周波数カウンターを用いて発振周波数を測定し、その時の数値を手書きしています。
かなり粗い目盛です。

まさか、こんなところで自作のGDMを写真公開するとは思っていませんでしたので、もう少し細かく丁寧にしておけば良かったと思います。

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GDMのコイルは差し替え式です。参考として、バンド分割を表1に示します。

表1バンド分割

メーカー製自作品
Aバンド 2~5MHz Aバンド 2~7MHz
Bバンド 4.8~11MHz Bバンド 7~25MHz
Cバンド 10.8~25MHz Cバンド 18~70MHz
Dバンド 22~50MHz
Eバンド 48~116MHz
Fバンド 108~250MHz

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以上、クリコンのレポートなのですが、コイルを作っているうちにGDMに興味が移ってしまい、話が長くなってしまいました。

次回はプリント基板の製作とケースへの組み込みを行って50MHz帯をのぞいてみようと思います。

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