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マイク・コンプレッサの実験と製作 −SSM2166活用

マイク・コンプレッサーの実験と製作

データ取り 編 (2015年1月)

 

◎SSM2166というIC

アナデバのSSM2166というICを紹介します。マイクロフォン・コンディショナと機能説明されていて、簡単に言いますと圧縮アンプです。

▽マイクロフォン・コンディショナ 全機能【SSM2166SZ】
http://www.marutsu.co.jp/pc/i/171255/

通常のアンプ(増幅回路)は図1 a ) のように小さい入力信号、大きい入力信号でも一定の増幅度で増幅しますので、増幅後の出力レベル差は大きくなります。
圧縮アンプの場合は図1 a )のように小さな入力信号でも増幅後の出力レベル差を小さくするように動作します。
これをグラフにしたものが図1 c ) で、出力のレベル差が少なくなる特性です。
通常のアンプでは増幅度は一定ですが、圧縮アンプの場合、入力信号が大きくなるほど増幅度が低下します。

 

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このような特性を図2のようにマイクアンプに応用すれば、通常のアンプでは大きな入力信号では波形ひずみ(クリップ)が発生することがありますが、圧縮アンプでは一様なアンプ出力となります。

 

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◎データを取る

★SSM2166の基本特性

SSM2166の基本的な入出力特性を図3に示します。横軸の入力信号のレベルに応じて3つの動作領域があります。
圧縮が始まるポイントをGATE THRESHOLDと言い、これより大きい入力信号は圧縮されて出力に現れます。
加しない領域(制限領域)になり、これをROTATION POINTと言います。
圧縮領域における横軸と縦軸の比率をCOMPRESSION RATIO(圧縮比)と言い、図4のようにr:1で定義され、rの値が大きいほど圧縮比が大きいことになります。
つまり、圧縮比が大きいほど出力レベルは少なくなります。

 

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★アンプ構成

図5に内部のアンプ構成を示します。プリアンプは一般的な非反転アンプの形で、外付けの抵抗でゲインを0dB~20dBに設定することが出来ます。
VCAは電圧制御アンプで、この部分で圧縮を行い、図3に示したGATE THRESHOLD、ROTATION POINTおよび図4のCOMPRESSION RATIOを外付け抵抗で設定します。

 

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プリンアンプは補助的なアンプになるので、以下、VCA部のみで各動作を説明します。

VCA GAINとは図6のようにROTATION POINTにおけるVCA入力とVCA出力との差(ゲイン)です。
この値は外付け抵抗により0dB~20dBまで設定でき、抵抗無し(オープン)では20dBの設定になります。

 

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COMPRESSION RATIO(圧縮比)は図7のようにROTATION POINTを起点とし、GATE THRESHOLDまでの間を1:1 2:1 5:1 などに比率を外付け抵抗で設定します。

 

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★測定回路

プリアンプのゲイン設定を除いても4つの設定項目があります。
特性は外付け抵抗の設定になるわけですが、具体的な抵抗値で特性を把握する目的で基本特性データを取ることにしました。
図8に測定回路のアンプ構成と図9に測定回路を示します。プリアンプのゲインを0dBとし、プリアンプの入力端子(+IN)を測定入力としています。
各設定項目と抵抗の関係は表Aのとおりです。GATE THRESHOLDは他の項目と無関係に設定できるのでここでは560KΩ固定としています。

 

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図10は測定系統図です。
発振器からの出力はアッテネータ(RA-920)にて設定し、これをオーディオアナライザのACレベル(Rch)にて監視します。
これにより設定ミスなどが防げます。
測定回路の出力はLchにて行い、波形ひずみ(クリップ)はオシロスコープでチェックします。

 

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写真1に測定風景を示します。
各機器間の接続は両端BNCプラグの同軸ケーブルを基本とします。
これにより外来ノイズの影響を少なくすることができて、測定の再現性が良くなります。

測定回路(基板)は写真2の測定治具ケースに収納して測定を行います。
金属ケースに各種コネクタを実装したもので、信号用の入出力コネクタは絶縁タイプのBNCです。
このように金属ケースに収納することで外来ノイズの影響を少なくすることができて、安定な再現性の良い測定ができます。
写真2のケースはフタが付いていて、場合によってはフタを閉めて測定します。

 

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写真3は用いたアッテネータの外観です。
4つのダイアルで減衰量を設定します。
例えば、すべてのダイアルをゼロの位置にセットし、この時のアッテネータ出力が0dBVとなるように発振器出力を調整しておけば、アッテネータのダイアル設定値がそのまま出力レベルとなって直読できます。
写真3では合計45dBの設定値になっていますので、信号レベルは「-45dBV」です。
このようにアッテネータを用いれば、信号レベルの設定が早く正確にできます。

 

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◎測定結果

★データ(表)とグラフの見方

表Cにデータ(表)のサンプルを示します。VCA GAINなどの4項目は具体的な抵抗値で示しています。入力および出力のレベル(電圧)の単位は「dBV」です。
dBVは1Vを0dBVとした絶対値です。主な値を表Bに示します。1Vより大きな値はプラスの符号、1Vより小さな値はマイナスの符号がつきます。

 

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表Cで青色の部分はROTATION POINT、黄色部は出力波形がクリップ(または、ひずみ)したことを意味しています。
グラフは横軸が入力、縦軸が出力です。参考として入力特性も一緒に書いています。

 

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★ROTATION POINTの確認

表1,2、グラフ1,2にROTATION POINTを0.1Vに設定した特性を示します。
ROTATION POINTの抵抗値はデータシートにグラフとして記載されています。
グラフから近い値の22kΩを設定しています。
ROTATION POINTは出力の増加が抑えられ始めるポイントなのですが、1つの特性だけでは分かりにくいので、図11のように各COMPRESSION RATIOでの特性(直線)が交差するポイントを見れば分かります。
表1では入力レベルが-20dBVの時に各出力レベルが同じです。
つまり、「-20dBV(0.1V)」が22kΩを設定したときのROTATION POINTになり、入力レベルを上げても出力の増加がわずかな特性です。

他のROTATION POINTについては表3、4およびグラフ3、4を参照願います。

 

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★COMPRESSION RATIOの確認

COMPRESSION RATIOもデータシートに記載されているのですが、表Dのように近い抵抗値を用いています。

 

表D COMPRESSION RATIOと抵抗値

抵抗(RC)100Ω9.1k20k47k
COMPRESSION RATIO 1 : 1 2 : 1 5 : 1 10 : 1

注意:データシートでは半端な抵抗値になっているが、E24系列で近い数値を用いた

 

例えば、表1の組み合わせ番号②では、入力-60dBV時に出力は「-36.1dBV」です。
入力が「-30dBV」では出力は「-21.6dBV」になり、この場合の入力変化分は30dBです。
また、出力の変化分は36.1-21.6=14.5ですから、入力と出力の比率は 30 :14.5 となって、約2 : 1 となっています。

 

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同様に、入力「-60dBV」と「-30dBV」のポイントで④の組み合わせを見ると、出力変化分は2.9dBですから、この場合のCOMPRESSION RATIOは 30 : 2.9 となり、約10 : 1です。
GATE THRESHOLDは図13のように入力が-65dBVのポイントです。
圧縮はこのポイントから始まり、入力「-20dBV」までの間になり、その間の出力レベル差は3.5dB(倍率で1.5倍)です。

 

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★GATE THRESHOLDの確認

GATE THRESHOLDは図14のように圧縮が始まる入力レベルです。
この設定は図9測定回路の抵抗RDにより行い、主な抵抗値にした場合の特性を表8、グラフ8に示します。
また、この結果をまとめたものを表Dに示します。

 

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★プリアンプにゲインを持たせた場合

プリアンプは図15のようにVCAの前にあります。
したがって、この部分にゲインを持たせると全体の特性はVCA単体の特性を左方向にプリアンプのゲイン分移動(シフト)したものになります。
表9,10およびグラフ9,10にプリアンプゲイン10dBにした場合の特性と図16に測定回路を示します。

 

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以上のように基本的な特性データを取りました。
次回はSSM2166の応用としてマイクコンプレッサを製作、実験する予定です。

 

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続きの内容は次回に続きます

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