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マイク・コンプレッサの実験と製作 2 −SSM2166活用

マイク・コンプレッサの実験と製作

製作、実験編 2015年1月

 

◎TX2014A用マイク・コンプレッサを計画する

前回のレポートでSSM2166の基本特性データを取りました。この応用として以前に製作したアマチュア無線用送信機TX2014A専用の「マイク・コンプレッサ」を製作することにします。
TX2014Aについては以前のレポートのように、若干のマイクゲイン不足を感じていたので、これの解消とマイク・コンプレッサを用いた場合の音質変化について実験します。ゲイン不足であればこれを上げれば良いわけです。
しかし、図17のように通常のアンプの場合、不要な小さい信号またはノイズも増幅してしまい、かえって了解度が落ちる可能性があり、場合によっては波形クリップ(ひずみ)が発生します。
そこで、不要な成分(信号レベル)は増幅しないで、必要なレベル以上の成分を一定レベルで増幅するマイク・コンプレッサ(圧縮アンプ)を用いれば了解度の改善につながります。
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◎回路

図19に試作回路を示します。電源はTX2014AからコネクタJ1を介して供給し、内部にて5Vに変換したものをSSM2166およびオペアンプに供給します。
スイッチS1はコンデンサマイクとテスト用信号源の切り替え用で、テストまたは特性測定時にコネクタJ2に発振器を接続します。
VR1はTX2014Aへの信号レベル調整用で、これにより過変調のないレベルにします。
RA、RB、RC、RDは実際に用いるコンデンサマイクにて定数選定(調整)します。
C5,C6,C7,C14は低域の周波数特性に関係します。
図19の定数の場合、総合の低域のカットオフ周波数は約300Hzになります。送信機用なのでこのような特性にしています。
低域をもう少し出したい場合はC5,C6,C7の定数を大きくします。
オペアンプは2個入りのCMOS(Rail-to-Rail)を用いています。特にRail-to-Railである必要はありません。
単電源用のLM358などでも良いと思います。両電源用のNJM4558などでも動作すると思いますが、この場合、図19のような空き入力ピンをGND接続することは不可です。
必ず、電源電圧の半分程度の電位箇所に接続します。オペアンプは2個入りです。1個余っているのでこれを利用してLPFを追加するのも良いかもしれません。
あるいは、圧縮が領域であることを表示する検出回路に利用するのも面白いです。
例えば、C7からの出力をDCに変換し、余っているオペアンプをコンパレータとして組んだものに入力します。
基準電圧を別に用意し、これと比較すれば圧縮領域が検出できます。
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◎部品表

表Eに示します。C5,C6,C7,C14はマイラーコンデンサなどのフィルム系が望ましいです。
今回は小型化を目的としてセキセラを用いています。この部分はHPF(ハイパスフィルタ)を形成するので低域の周波数特性に関係します。
今回は容量誤差の少ないCT-0805B104(±10%品)を用いています。
試作機ではその他の0.1μFの部分はパスコン用途を用いて区別しているのですが、まぎらわしいので部品表ではすべて同じ型番にしています。
J1~J3は絶縁タイプのコネクタです。
表E 部品表
部品番号 品名 型番 メーカー 数量 備考
C1,C9,C10 ケミコン 10μF 50PK10MEFC Ruby-con 3
C11,C16 ケミコン 10μF 50PK10MEFC Ruby-con 2
C12 ケミコン 2.2μF 50YK2R2 Ruby-con 1
C13 ケミコン 22μF 50PK22MEFC Ruby-con 1
C2,C3,C4 セキセラ 0.1μF CT4-0805B104K Linkman 2
C8,C15 セキセラ 0.1μF CT4-0805B104K Linkman 2
C5,C6 セキセラ 0.1μF CT4-0805B104K Linkman 2
C7,C14 セキセラ 0.1μF CT4-0805B104K Linkman 2
IC1 SSM2166 AD 1
IC2 78L05 1
IO3 LMC6482 NS 1
J1,J3 φ3.5ステレオジャック MJ073H マル信 2 絶縁タイプ
J2 RCAピンジャック MR-699クロ マル信 1 絶縁タイプ
JP1 ジャンパーソケット3P 1 絶縁タイプ
R1 カーボン抵抗 1k 1
R2,R3,R4 カーボン抵抗 47k 3
R5 カーボン抵抗 2.2k 1
R6 カーボン抵抗 470Ω 1
RA カーボン抵抗 本文参照 1
RB カーボン抵抗 本文参照 1
RC カーボン抵抗 本文参照 1
RD カーボン抵抗 本文参照 1
S1 スライドスイッチ 3P 1 パネル用
VR1 半固定抵抗 50k GF063P1B503 東京コス 1
XIC3 ICソケット8P 1 IC3用
XJP1 ジャンパープラグ 1 JP1用
ユニバーサル基板 ICB-86 サンハヤト 1
変換基板 D014 ダイセン 1
ケース YM-130 タカチ 1
結合用ソケット 適量
アースラグ 1
金属スペーサ、ビス類 適量

 

◎製作

★基板

写真4のように47×72mmサイズのユニバーサル基板で製作しています。
カーボン抵抗は小型品を用いているのですが、少し窮屈な配線になっています。
SSM2166のパッケージはSOP14です。このままではユニバーサル基板に実装することはむずかしいので、図20のようにピッチ変換基板を用います。
今回用いたユニバーサル基板ICB-86は中央に2本の連結パターン(ライン)があり、これを図21のように電源、GNDに用います。GND配線は図21 b ) のようにGNDループを作らないようにします。

 

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★ケース加工

写真5のようにケースカバーと接触するシャーシ部分はヤスリなどで表面をはがしてシールド効果を高めています。

 

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★組み込み

用いた線材はAWG24サイズです。写真6のように束線を兼ねて軽くツイスト処理をします。
ケースはこのままですと電気的に浮いた状態ですので、アースラグを利用して図22のように基板のGNDへ接続します。
図23にGND配線の要領を示します。

 

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◎調整

本装置はTX2014A専用なので、出力レベルをこれに合わせる必要があります。
TX2014Aの適正入力レベルは図24のように「-15dBV~-12dBV」です。
そこで、余裕を持たせて「-5dBV」付近とし、VR1にて適正レベルとなるようにゲイン設定します。
この設定は抵抗RAになり、10kΩとした場合の特性を表11、グラフ11に示します。
GATE THRESHOLDは用いるコンデンサマイクで設定する必要があり、560k、100k、47kにした場合の特性も表11、グラフ11に示します。
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◎評価

★ヘッドホンによるテスト

ゲインが大きいので小さい信号またはノイズも増幅した場合、了解度が落ちる場合があります。
必要な信号レベルのみ増幅したいので、GATE THRESHOLDを設定します。
これは実際に用いるコンデンサマイクを接続し、抵抗RDを設定します。
今回は図25のようにヘッドホンアンプを介してヘッドホンにて音を聞きながら行ないました。

 

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(560kの場合)

ヘッドホンアンプのボリュームを絞らないとハウリングを起こします。
部屋の隅または屋外の音など「なんでもかんでも増幅し、かなり、うるさい音」です。
マイクに向かってしゃべってもうるさく聞こえ、常に「なんらかの音」が出ています。

 

(100kの場合)

マイクに向かってしゃべらなければ無音で、マイク距離30cmくらいでしゃべれば音が「スッ」と出てきます。
距離20cm以内であれば音のレベル差はそれほど感じられず、均一に増幅している感触です。
ちなみに、音声の替わりにコネクタJ2に携帯型音楽プレーヤを接続してみました。
音量ボリュームは0~30までに設定できるのですが、10~30の間では同じ音量に感じられます。
用いたコンデンサマイクと100kΩの組み合わせでは距離30cmくらいがGATE THTESHOLDなのかもしれません。
つまり、30cm以内でしゃべれば圧縮が始まって増幅し、その音がヘッドホンから聞こえ、しゃべらなければヘッドホンは無音状態になります。
GATE THRESHOLDを越えた時点で音が「スッ」と出てくるのには最初驚きましたが、必要な時にしゃべれば音が出てくるので便利な機能です。

 

(47kの場合)

この定数では感度不足で、マイク距離10cm以内でしゃべらないと音が出てきません。

 

以上、560k、100k、47kでテストしましたが、今回用いたコンデンサマイクでは100kが良い設定値でした。
動作イメージをまとめたものを図26に示します。

 

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★C12,13の選択

ここのコンデンサ設定値により音の印象が変わります。
文章で表現するのが少しむずかしいのですが、音声の場合、コンデンサ容量が少ないほど筆者には「ハギレが良い」ように感じられました。
具体的には「さしすせそ」と発音すると、「サッシッスッセッソッ」となり、大きな容量では大げさな表現をすれば「さーしーすーせーそー」というような感じです。
図19の回路では2.2μFと22μFをJP1にて切り替えて評価しています。
容量の少ない2.2μFでは「ハギレが良い」のですが、筆者には少し不自然のように感じられました。
また、容量の大きい22μFでは少し「甘ったるい」感じなのですが、こちらのほうが筆者の好みなので、22μFを採用することにしました。
以上の感想には個人差があると思いますので、無線用途での了解度および好みで定数を決めると良いと思います。

 

★TX2014Aによるテスト

TX2014Aとは図27のようにお互いのコネクタJ1同士を市販のケーブルで接続します。
TX2014A側の変更回路は図28のとおりで、新たに抵抗Roを介してマイク・コンプレッサへ電源供給しています。
マイク・コンプレッサの消費電流は約27mAです。
したがって、Roによる電圧降下があるので、実際にマイク・コンプレッサへ供給される電源電圧は約9.3Vです。

 

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写真7はテスト風景です。テスト用信号(正弦波、1KHz)をマイク・コンプレッサに入力し、VR1にて過変調にならない程度に調整します。
この時のTX2014Aの変調波形を写真8に示します。
コンデンサマイクに切り替えて送信してみます。
TX2014Aは若干のマイクゲイン不足を感じていたので、マイク・コンプレッサが必須になりました。
了解度、音質等についてはIC-726Sと比較しているのですが、個人差があると思いますので、ここでは表現しません。

 

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◎参考データ

表12、グラフ12に今回製作したマイク・コンプレッサの周波数特性を示します。入力「-20dBV」時の条件です。
無線用なので高域は10KHzまでのデータです。
この時にはバッファーのオペアンプ入力は「約-6dBV」なので、用いるオペアンプのスルーレートにより高域特性に影響が出るかもしれません。
ちなみに、今回用いたLMC6482では100KHzまでは1dB以内に収まっています。
表13、グラフ13はマイク・コンプレッサをTX2014Aに接続した時の周波数特性です。
測定ポイントは図28のR16です。
マイク・コンプレッサは高域の周波数特性を操作していないので、TX2014A側のLPFで3KHzから上を減衰させています。
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◎まとめ

SSM2166の応用としてアマチュア無線用送信機TX2014A専用のマイク・コンプレッサを製作しました。
単純にゲインを上げるだけのマイクアンプと異なり、圧縮アンプを用いると面白い音響効果になりました。
特に、GATE THRESHOLDは設定値により動作が異なり、しゃべった時だけ音が出て、黙れば周囲の音も含めて無音になるのは面白いです。
コンデンサC12,C13については深くは検討していません。
他の用途(機器)によっては、これも面白い音響効果になるのかもしれません。
SSM2166のパッケージは面実装のSOP14ですが、このサイズはピッチ変換基板を用いればはんだ付けは難しくありません。
今回はアマチュア無線用として製作しましたが、他の応用としてチャレンジされてはいかがでしょうか。

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