2015年06月29日

オーディオ

フォノ用ヘッドホンアンプの製作 設計編

◎フォノ用ヘッドホンアンプの計画

アナログプレーヤ用のイコライザーアンプについては2011年9月のまめ知識で紹介しました。筆者はヘッドホンで聴くために、このイコライザーアンプに、これも自作のヘッドホンアンプを接続しています。
それぞれのアンプに電源が必要で、装置間の接続ケーブルも必要です。そこで、図1のようにアンプ部を一つにまとめれば、電源も一つになり、非常にすっきりします。
なお、レコード針のことをカートリッジと言いますが、MM型カートリッジを対象とします。

 

◎設計方針

せっかくですので、なるべく小型のケースに収納し、コンパクトに仕上げることにします。以下、設計方針を示します。

 

①イコライザーアンプの回路構成は簡単なものにする。

必要最小限の回路とし、部品点数を少なくすることを目標にします。
また、用いる部品も一般的なものを採用し、なるべくお金をかけない。
用いるデバイスはトランジスタ、オペアンプなどが考えられますが、部品点数を少なくする目的でオペアンプを採用することにします。
 

②ヘッドホンアンプの回路構成は簡単なものにする。

AD8397を用いて部品点数を少なくします。
このICについては「AD8397を用いたヘッドホンアンプの製作」を参照願います。
▽製作記事「AD8397を用いたヘッドホンアンプの製作」
http://www.marutsu.co.jp/contents/shop/marutsu/mame/199.html
▽AD8397 マルツオンラインで発売中
http://www.marutsu.co.jp/SearchCategoryList.jsp?path=&q=AD8397
 

③電源はスイッチング方式ACアダプタ1個とする。

アンプ部はプラスマイナスの両電源動作です。
したがって、単一電源供給から内部にて両電源に変換する必要があります。今回はパワー・バッファICのLT1010を用い、「電源スプリッタ」を構成する方式とします。▽LT1010 マルツオンラインで発売中
http://www.marutsu.co.jp/SearchCategoryList.jsp?path=&q=LT1010+IC

 

◎イコライザーアンプの設計

★オペアンプを用いた回路
図2にオペアンプを用いたイコライザー回路を示します。

RIAA特性例を表1に示します。
オペアンプ増幅の負帰還部にRA,RB,CA,CBを構成し、この組み合わせ(定数)でRIAA特性となるようにします。

表1 再生側のRIAA特性

周波数 dB
20 +19.2
50 +16.9
100 +13.0
500 +2.6
1k 0
5k -8.2
10k -13.7
20k -19.6

1kHz基準(0dB)
主な周波数のみ抜粋
小数点第1位までの数値

図2の特性解析は少し難解なので、関係式および計算式のみ以下に記します。

 

計算結果により半端な値が出た場合、抵抗はE96系列を用いれば良いのですが、コンデンサの場合、静電容量のステップは細かくありません。
用いるコンデンサはフィルム系で、この場合、E12系列です。したがって、最初にコンデンサの1つを都合の良いE12系列で設定します。

このようにして最初に1つめのコンデンサ値を決めて、④式によってRAを計算するわけですが、この組み合わせは無数にあります。
そこで、目安としてRAの値が数10kΩ以上となるCAの値で計算します。
表2にCAの値を0.01μF~0.082μFとした場合の計算結果を示します。

RAの値は数10kΩ以上、RBの値は数kΩ以上になっています。
実際に用いるRAはE24系列としています。
CAの値が0.1μFまたは、0.01μFより下の場合は、表2の各部の数値の桁が1つ移動するだけです。例えば、CA = 0.1μFでは、RA = 31.8kΩ、CB = 0.02777μF、R = 2.7kΩです。

表2 各定数での計算結果

CA RA計算値 RA実際値 RA誤差 CB計算値 CB実際値 CB誤差 RB計算値
0.01μ 318K 330K 3.7% 2777p 2700p 2.8% 27K
0.022μ 144.5K 150K 3.8% 6111p 5600p 9.1% 12.2K
0.033μ 96.3K 100K 3.8% 9166p 8200p
+1000p
0.3% 8.18K
0.047μ 67.6K 68K 0.5% 0.013μ 0.01μ
+3300p
2.3% 5.7K
0.056μ 56.7K 56K 1.2% 0.01555μ 0.015μ 3.6% 4.8K
0.068μ 46.76K 47K 0.5% 0.01888μ 0.018μ
+1000p
0.6% 3.97K
0.082μ 38.78K 39K 0.5% 0.02277μ 0.022μ
+1000p
1% 3.29K

RA誤差:RAの計算値と実際に用いる抵抗値の差
CB誤差:CBの計算値と実際に用いる容量値の差
CBはどうしても半端な数値が出るので、図4のように並列接続して容量調整します。
これ以外にもRA,RBなども素子を直列または並列接続で計算結果に近くすることは可能ですが、部品点数が多くなるので、コンデンサCB部のみ並列としました。

 


表2の結果からCAが0.068μFまたは0.082μFを用いれば誤差が一番少なくなることが分かります。今回は最終的にCAが0.068μFの組み合わせを採用することとし、最終定数を図4に示します。

 

★ゲイン設定
イコライザーアンプのゲインは30~40dBの間が一般的です。
この場合、1kHzにおけるゲインを差し、RA,RB,RCの設定で決まり、目安の式を⑥式に示します。
今回は図6のように、RC = 100Ωとし、+34.1dBとしました。

 

★Ltspiceによるシミュレーション
Ltspiceによりシミュレーションを行い、RIAA規格との誤差を確認してみます。
1kHzにおけるゲインは+34.1dBなので、イコライザー特性は図7のように予想されます。

シミュレーションの条件を図8に示します。
用いるオペアンプにより特性に若干の差が生じるのですが、シミュレーションで用いるオペアンプはGB積が14MHzのLT1211です。

 

図9にシミュレーション画面を示します。

主な周波数ポイントでの値を表3に示します。
絶対値の欄は図9の結果から読み取った値で、相対値の欄は1kHzを基準としたものです。
例えば、100Hzでは、53.5 – 34.1 = +19.4 となり、これと規格欄との差がRIAA偏差(誤差)です。
この誤差が小さいほど、イコライザーアンプとして性能が良いことになります。
イコライザーアンプのカタログ(データシート)などでは、イコライザ偏差、RIAAカーブ精度などの表現で記載されています。
一般的にはこの値は±1dB以下で、機器の価格で異なるようです。

表3の結果ではおおよそ±0.2dB以内となっていますが、これは部品誤差ゼロの場合です。
実際には抵抗およびコンデンサには誤差がありますので、ここでの結果はあくまでも確認程度にとどめてください。

表3 シミュレーション結果と誤差

周波数 RIAA規格 絶対値 相対値 RIAA偏差
20 +19.2 +53.5 +19.4 +0.2
100 +13.0 +47.2 +13.1 +0.1
1k 0 +34.1 0 0
10k -13.7 +20.5 -13.6 +0.1
20k -19.6 +14.7 -19.4 +0.2

 

◎ヘッドホンアンプ部

この部分については別のまめ知識「AD8397を用いたヘッドホンアンプの製作」の回路を基本とし、違いは以下のとおりです。

①電源電圧を±5Vとした。
②出力側の制限抵抗の値を大きくしている。

R10 = 68Ωとすれば、最大37mWの出力が得られ、十分な大きさです。

R10の値を小さくすれば、これより大きな出力が得られます。

表4にICの消費電力を示します。
定格に対して十分小さな値です。
R10はもう少し小さなものでも良さそうです。

表4 消費電力 R10 = 68Ω

電源電圧 ±5V
Icc(最大値) 24mA
Iccによる電力 240mW
Vo 2.5V
Iosource(100Ω負荷) 25mA
Iosourceによる電力 62.5mW×2
合計消費電力 365mW

Iccはパッケージでの値

 

◎電源部

★単電源から両電源を作る
例えば図11 a ) のように抵抗RA,RBを直列接続したものを電源(24V)に接続します。
この場合、RAとRBは同じ値なのでRBの両端電圧降下は電源電圧の半分である12Vです。
電圧の基準点(簡単に言いますと、テスターでDC電圧を測る場合の黒テストリード側)をRBの下側にすると、RBの上側は+12Vです。
今度は図11 b ) のようにRA,RBの接続点を基準とすれば、RAの上側は+12V、RBの下側は-12Vです。
つまり、基準点をRA,RBの接続点にすればプラスマイナスの両電圧が得られることになります。

これを応用した両電源の構成例を図12に示します。
電圧安定用として大容量のコンデンサを追加しています。
RAとRBの接続点を仮想GNDと言います。

 

★パワー・バッファを用いた方式
今回はパワー・バッファICのLT1010を用いた方式を採用しています。
このICは図13のように接続すると、出力(仮想GND)は供給電圧の約1/2の電圧になり、その駆動能力は±150mAです。

 

★電源系統
図14のように本装置への電源供給は市販のスイッチングACアダプタ(DC24V)です。
イコライザーアンプはLT1010の仮想GNDにより±12V動作とし、ヘッドホンアンプはこのままでは消費電力の定格をオーバーしますので、3端子レギュレータにより±5Vに変換してから供給します。

 

◎回路と部品表

回路図を図15に示します。表5に部品表を示します。
IC1はNJM4580を選択しました。この部分はオーディオ用のオペアンプであれば好みの型番で良いです。
イコライザー部のRIAA偏差を少なくしたい場合、この部分の部品誤差は小さいものが望まれます。
今回は偏差についてはそれほど要求しなく、±5%品のオーディオ抵抗を採用することにしました。

▽NJM4580
http://www.marutsu.co.jp/SearchCategoryList.jsp?path=&q=NJM4580

次回は基板設計を行い、感光基板にて製作します。

 

表5 部品表

部品番号部品名型番メーカー数量
C1 セラコン 100p CCDC50V100P 1
C2,C7 オーディオ用ケミコン10u/50V UFW1H100MDD ニチコン 2
C3 マイラーコンデンサ 0.068μ EOL100S68J0-9 FARAD 1
C4 マイラーコンデンサ 0.018μ EOL100S18J0-9 FARAD 1
C5 マイラーコンデンサ 1000p EOL100D10J0-9 FARAD 1
C6 オーディオ用ケミコン470u/25V UFW1E471MPD ニチコン 1
C8 フィルムコンデンサ 2200p WDQC-222/100V Linkman 1
C9 オーディオ用ケミコン100u/35V UFW1V101MED ニチコン 1
R1,R4 オーディオ用抵抗1/4W 100Ω REX25J100 タクマン 2
R2,R3 オーディオ用抵抗1/4W 100K REX25J100K タクマン 2
R5 オーディオ用抵抗1/4W 47K REX25J47K タクマン 1
R6 金属皮膜抵抗1/4W 3.9K 1/4WキンピR 3.9KΩ KOA 1
R7 オーディオ用抵抗1/4W 220Ω REX25J220 タクマン 1
R8,R9 オーディオ用抵抗1/4W 1K REX25J1K タクマン 2
R10 オーディオ用抵抗1/2W 68Ω REX50J68 タクマン 1
R11 オーディオ用抵抗1/4W 10K REX25J10K タクマン 1
以上は片チャンネル分
IC1 オペアンプ NJM4580D NJRC 1
IC2 オペアンプ AD8397ARZ-ND アナデバ 1
IC3 バッファーIC LT1010CN8#PBF リニアテク 1
IC4 3端子レギュレータ +5V NJM7805FA NJRC 1
IC5 3端子レギュレータ -5V NJM7905FA NJRC 1
J1 RCAジャック 赤 RJ-2003/R Linkman 1
J2 RCAジャック 白 RJ-2003/W Linkman 1
J3 φ3.5ステレオジャック MJ073H マル信 1
J4 DCジャック MJ14ROHS マル信 1
J5 アースターミナル T10 サトーパーツ 1
C10~C13 セキセラ 0.1μ CT4-0805B104K Linkman 4
C14 セキセラ 0.01μ CT4-0805B103K Linkman 1
C15,C16 オーディオ用ケミコン470u/25V UFW1E471MPD ニチコン 2
C17,C18 セキセラ 0.1μ CT4-0805B104K Linkman 2
C19,C20 オーディオ用ケミコン100u/35V UFW1V101MED ニチコン 2
S1 ロッカースイッチ CWSC11WCKMMES NKK 1
VR1 2連ボリューム,10K,A R1610G-QB1-A103 Linkman 1
ケース 1
つまみ 1
感光基板 NZ-P10K サンハヤト 1
ピッチ変換基板 D008 ダイセン 1
DIP連結ソケット WDIP-PIN8 1
丸ピンICソケット 8ピン 21218NE Linkman 3

※感光基板製作用品は除く

フォノ用ヘッドホンアンプの製作 製作編へ続く

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