2015年09月29日

SPICE

LTspiceによるトランジスタ増幅回路 -固定バイアス編-

◎シミュレーションの勧め

増幅回路はオペアンプで構成することが多いと思います。
例えば図1 b ) のオペアンプ反転増幅回路では部品点数も少なく、電圧増幅度Avは抵抗R1,R2の比率で決まります。
また、回路の入力インピーダンスZiは抵抗R1で決まり、回路特性が把握しやすいものです。

これに対し、図1 a ) のようなトランジスタで構成した場合、増幅度、入力インピーダンスなど直観的に把握するのは難しいものです。
バイアスを与える抵抗、直流カットコンデンサなども必要で、設計となると面倒なことが多いです。
しかし、耐圧が許容範囲内であれば低電圧~高圧電源などで動作可能ですから、使い勝手の良いところがあります。

図1 a ) の回路での増幅度は動作電流(コレクタ電流)が分かれば計算できます。
入力インピーダンスはR1,R2とhパラメータにおける入力抵抗hieの並列合成です。

このへんの計算が少し面倒なところですが、少しの知識があれば計算できます。
また、計算結果がはたして合っているのか不安なときがあります。そこで、Ltspiceを活用して設計確認することをお勧めします。
シミュレーションははんだ付けしなくても部品変更がすぐに出来ますので、学習用途にも最適です。

 

◎hパラメータによる等価回路

★等価回路の考え方

電源(Vcc)ラインは交流信号に対して作用をおよぼしていないのでGNDとして考えます。
図2 b ) のようにこのラインをGNDに接続すると出力VoはRcの両端電圧です。
固定バイアス回路の場合、hie ≪ RB の条件になるのでRBを無視(省略)すれば、is = ib です。

 

このように考えた場合のhパラメータによる等価回路を図3に示します。
バイアス抵抗RBがなくなり、コレクタ・エミッタ間に負荷抵抗Rcが接続された形です。
関係式を元に算出した電圧増幅度Avを①式に示します。
分母にマイナスの符号が付いているのは位相が反転することを意味しています。

★等価回路の考え方

トランジスタが動くために直流電源または電流を与えることをバイアスと言い、図4が方式が一番簡単な固定バイアス回路です。

コレクタ電流Icはベース電流IBをHfe倍したものが流れます。
例えば、電源電圧5V、コレクタ抵抗Rcが2.2kΩの条件で考えてみます。
コレクタ電流Icが常に直流で1mAが流れていればRc両端の電圧降下は2.2Vですから、コレクタ・GND電圧は2.8Vです。

この状態で交流信号Viを入力すれば、コレクタは2.8Vを中心として交流信号が振幅します。
これが増幅作用で大きさ(増幅度)は①式によります。

図5に2SC1815-Yを用いた場合のバイアス設計例を示します。
設計というおおげさなものではありませんが、コレクタ電流Icが1mAとなるようにベース抵抗RBを決めるだけのことです。

2SC1815-YのHfeは120~240の間です。ここではセンター値の180で計算してみます。
必要なベース電流は1mAを180で割った値ですから②式のように5.55μAです。
この電流となるようにRBの値を決めれば良いので③式のようにRB両端電圧をベース電流IBで割ると783kΩになります。
実際にはE24系列の中からこれに近い750kΩまたは820kΩの抵抗を用います。

 

★電圧増幅度Av

図6に2SC1815-Yのhパラメータを示します。データシートから読み取った値で、読み取り誤差についてはご容赦願います。
①式に各数値を入れて計算すると86.08倍の増幅度で、デシベルでは+38.69dBです。

 

◎gmによる等価回路

図7ではコレクタの電流源をhfe×ibで表わしましたが、この部分をgmで表わしたものを図8に示します。
gmとは相互コンダクタンスと呼ばれるもので、ベース・エミッタ間電圧VBEの変化分(つまり、交流信号)とコレクタ電流の変化分の比で定義されます。(図8ではVBEの変化分をViという記号にしています。)

gm = ic / Vi ですから、コレクタの定電流源は ic = gm×Vi です。
これを用いて電圧増幅度Avを表すと⑤式になり、相互コンダクタンスgmの値が分かれば電圧増幅度を求めることができます。

gmはFETまたは真空管などで回路解析に用いますが、トランジスタのgmは⑥式で表わされます。39の数値は常温(25℃)付近での値です。
(正確にはもう少し細かい数値になるのですが、私が暗記できないのでこの数値を用いました。
ちなみにこの値は0℃で42.52、35℃で37.69になります)
Icはトランジスタの動作電流(直流コレクタ電流)です。
単位はA(アンペア)なので、例えばコレクタ電流が1mAではgmは39×10-3です。
⑥式のとおり比例関係ですから、コレクタ電流0.1mAではgmは3.9×10-3です。図9に計算例を示します。

 

◎Ltspiceによるシミュレーション

★2N3904のバイアス設計

小信号増幅用途の中から2N3904を選んでみました。
実物も入手できますから、シミュレーションと実機で確認することができます。

◎マルツオンライン 小信号トランジスタ(5個入り)【2N3904(L)】商品ページ
http://www.marutsu.co.jp/pc/i/60888/

LtspiceではhFEが300ですので、図10にこの値でのバイアス設計を示します。
VBEはデータから計算することができるのですが、0.65Vと仮定してバイアス設計を行いました。

RBがかなり半端な数値ですが、とりあえず、この値でシミュレーションしてみます。

★電圧増幅度のシミュレーション

図10にシミュレーション回路を示します。カップリングコンデンサCc1は10Uです。
R1は原理的に不要なのですが、後で回路の入力インピーダンスを確認する目的で入れています。(1Ω)
Label NetはそれぞれVi,Voとし、これの比が電圧増幅度です。

Runさせて見たいポイントをトレースすれば絶対値で表示されます。
増幅度は相対値ですから、入力Viと出力Voの比をデシベルで表示させるために画面1のAdd Traces to Plotで V(Vo)/V(Vi) と入力して追加します。
その後、画面2でこの項目を選択すれば電圧増幅度の周波数特性がデシベルで表示されます。

画面3にシミュレーション結果を示します。1KHzのポイントで38.46dBの電圧増幅度です。

図9での計算値より若干低いシミュレーション結果ですが、ほぼ一致しています。
1/hoe≫Rcの条件で1/hoeの成分を無視していますが、この条件が成り立たない場合、注意が必要です。
今回は1/hoeが100kΩと推定されます。

図12にRcが1kΩの場合を示します。
コレクタ電流は同じ1mAですからgmの値は変わりません。
gmの単位はミリですから、Rcの単位をキロにしておけば指数の計算は不要です。

★回路入力インピーダンスの確認

図13に固定バイアス回路入力インピーダンスの考え方を示します。
図13 a ) は交流的な等価回路で、トランジスタ部をhパラメータ等価回路で表現したものが図13 b ) です。

Vi(信号源)からトランジスタのベース・エミッタ間を見るとコレクタは見えない(ベースに接続されていない)のでこの影響はないことになります。
したがって、コレクタ側を省略(削除)すると図13 c ) になります。

結局、Viからトランジスタ回路を見ると、RBとhieが並列接続された形に見え、これが固定バイアス回路の入力インピーダンスZiです。
したがって、hieの値が分かれば計算できます。

★hieの値

hieは前記図6ではデータシートから読み取りました。
この方法では読み取り誤差および必要条件が異なるとhieを求めることができません。そこで、⑧式に計算による求め方を示します。
ベース電流IBの値が分かれば求めることができます。常温付近に限っての計算式ですが、暗記できる式です。

図14に今回の動作条件でのhie計算結果を示します。

結局、回路としてはRBが並列接続された形ですから、回路の入力インピーダンスZiは7.65kΩです。

この計算結果が正しいかシミュレーションで確認します。
方法は色々あるのですが、回路の増幅度で確認することにします。

図16は単純に抵抗R1とZiが直列接続された形です。
Ziの両端電圧VbはViをR1とZiで抵抗分割されたものです。
R1 = Zi であればVbはViの半分の電圧になり、デシベルでは-6dBです。

図17はZiを確認するためのシミュレーション回路です。
R1 = 7.65k とし、Q1のベース電圧Vbと入力Viとの比(増幅度)を確認します。
画面4はシミュレーション画面で、-5.949dBの結果です。
これにより、ほぼ、入力インイーダンスZiは7.65kΩであることが分かります。

以上のようにhieはベース電流値で決まり、固定バイアス回路の場合、RB ≫ hie の関係になるので、入力インピーダンスZiは、ほぼhieです。
入力インピーダンスを上げたい場合、ベース電流値を小さくします。
具体的にはトランジスタのhFEが大きいものを使用します。参考として図18に計算例を示します。

 

 

LTspiceによるトランジスタ増幅回路 -固定バイアス編-
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