2015年11月16日

教育分野

アナログ的測定器 第2回目

◎はじめに

今回はアナログ・オシロスコープを紹介します。
新製品としてのアナログ・オシロスコープを見かけることが非常に少なくなりました。
オシロスコープ(以下、オシロと呼ぶ)で観測波形を静止させて見やすくすることを同期と言います。
同期方式には「強制同期式」と「トリガ起動式」(トリガ掃引)の2つがあり、現在用いられているものはトリガ起動式で、強制同期式を見かけることはほとんどありません。
そこで今回は強制同期式オシロとはどのようなものか、簡単に紹介します。
なお、説明に用いる製品例はことわりのない限り、製造終了品です。

◎強制同期式オシロ

見かける機会が非常に少なくなってきましたので、写真1に製品例を示します。
外観比較のために④のトリガ起動式オシロも一緒に撮影してみました。

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★波形再現の原理

ブラウン管は電子ビームを蛍光面に当てることによりスポット(発光)ができて、垂直偏向板、水平偏光板に加える電圧の大きさと極性により位置が変わります。(図1)

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図2は垂直偏向板に信号を入力した例で、スポットの位置が信号の大きさ、極性により上下に移動するだけです。
今度は図3のように水平偏光板に「のこぎり波」を加えると、大きさと極性により、水平方向のスポット位置が決まります。
のこぎり波がマイナスの最大値で管面の左端、プラスの最大値では右端に移動し、

その後はマイナス最大値になりますので、スポットは左端に戻ります。
このようにスポットを左→右へ移動させることを掃引と言います。
例えば、正弦波信号①の位置でのこぎり波をマイナス最大値、⑥の位置でプラス最大値とすれば、垂直偏偏向板に加えた信号が再現(表示)できます。

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★掃引周期と観測波形の関係

図5に掃引周期と観測波形の関係を示します。

a ) 周期が同じ(プラスの立ち上がり)

のこぎり波の開始(上昇)が正弦波のプラスの立ち上がりです。
観測波形は1サイクル分です。

b ) 周期が同じ(プラスの最大値)

のこぎり波の開始(上昇)が正弦波プラスの最大値です。
この場合も観測波形は1サイクルですが、正弦波のプラス最大値~プラス最大値の波形が現れます。

c ) のこぎり波の周期が3倍

のこぎり波の周期が正弦波の3倍です。
この場合、観測波形は正弦波が3サイクル現れます。

d ) のこぎり波の周期が1.5倍

最初ののこぎり波の開始は正弦波プラスの立ち上がりで、2番目では正弦波マイナスの立下りなので、観測波形が複数(2個)見えます。

e ) 周期が一致しない

のこぎり波の開始ポイントが一定しないので、波形が何本かに見えて静止しません。

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つまり、入力信号の周波数をF1、のこぎり波の周波数をF2とすれば、観測(静止波形)するためには以下の関係が必要です。

F2 = n×F1 (nは1、2、3・・・整数)

このような関係になれば良いのですが、実際にはのこぎり波の周波数が変動する場合があります。
例えば、図6のように掃引開始ポイントが変動すると観測波形が静止しません。
したがって、掃引開始ポイントは常に同じであることが必要です。
つまり、図7のように同期させます。

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★強制同期式オシロとは

強制同期の原理図を図8に、原理的な強制同期式オシロのブロック図を図9に示します。
のこぎり波発生回路は単独で発振しています。
④のSWEEP RANGEおよび⑤のSWEEP VARIABLEで静止波形となるような周波数関係に調整します。このままではまだ同期しません。
ここで信号の一部を取り出してプラス極性(またはマイナス極性)を検出し、これをのこぎり波発生回路に加えることにより観測波形周期と掃引開始ポイントが一定となるように制御しています。
このような方式を強制同期式と言います。

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複雑な波形は観測(静止)できません。
図10に強制同期式で観測できる波形例を示します。
基本的に、信号の周期とのこぎり波の周期が一致すれば観測できます。
図10 d ) はパルス波ですが、周期性があれば観測できます。

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このように周期性がある信号であれば、同期して波形を観測することができますが、強制同期式では図11のように波形を拡大して観測することができません。
例えば、c ) のように2個目ののこぎり波最大ポイントでは入力波形に変化がないので同期できません。

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直流が入力信号の場合、変化がありませんので、同期しません。
掃引はのこぎり波発生回路で設定した周期になります。直流ですから、同期する必要はありません。

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◎強制同期式オシロの製品例

★KIKUSUI 538A

写真2に538Aの操作部を示します。
各部の名称はメーカーにより若干異なるので、図9における操作部に対応した番号を付けました。
口径75mmのブラウン管で、筐体サイズ202W×160H×305D、重量約3.8kgの小型です。
帯域はDC~5MHzなので、主にオーディオ帯域の信号観測用途です。
現在のデジタル・オシロなどでは2ch~4chですが、この機種は1chです。
信号入力には一般的なオシロと異なり、プローブは用いません。
①のVERT INPU端子にシールドケーブルなどを利用して接続します。
②、③のVERT GAINで適当な振幅レベルとなるように調整し、④、⑤により同期させます。
写真2の波形が薄く見えますが、実際にはもっときれいです。
正弦波の掃引開始ポイントがマイナス方向から始まっています。
この機種は同期極性がマイナス固定なのでこのような波形になります。
機種によっては、同期極性を選択(プラスかマイナス)できるものもあります。

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垂直軸のVERT GAINは一般的なオシロのように、20mV/DIV、50mV/DIV、1V/DIVのように感度表示されていません。
この部分は4ポジションで、左から「GND」、「1/100」、「1/10」、「1/1」の表示です。
機種によっては数字が「×100」、「×10」などの表現になります。
VERT GAINはアッテネータ(減衰器)なので、例えば「1/10」は入力された信号を1/10にしますという意味です。

デジタル・オシロスコープは自動的に信号レベル、周波数などを表示してくれますが、538Aなどのオシロでは次のような手順で電圧(振幅)測定を行います。
まず、どこのVERT GAINポジションでもよいのですが、図14のように「1/10」のポジションで行ってみます。
正確なDC1Vを用意し、VERT INPUTに入力します。
VERT GAIN VARIABLE(ボリューム)にて管面での表示(大きさ)が「5 DIV」となるように調整します。
これにより、1/10ポジションでの感度が200mV/DIVになります。
1/10ポジションにて調整を行いましたが、この調整により他のポジションでは図14の感度になります。
ここで面白いのは、図14では1Vを「5 DIV」にしたので200mV/DIVになりましたが、例えば「1V時に1 DIV」で調整すれば、「1V/DIV」の感度になります。

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図15は実際の観測例です。
未知の振幅レベルの信号を入力し、適当な管面波形となるようにVERT GAINを選択します。
この例では1/10ポジションにおいて波形の振幅レベルが「3 DIV」になっています。
このポジションでの感度は200mV/DIVですから、波形が「3 DIV」なので振幅は600mVp-pであることが分かります。

以上のように振幅測定をしようとすると少し手間がかかります。
波形モニター用途であれば調整を省略して管面波形が適当な大きさとなるように、VERT GAINおよびVERT GAIN VARIABLEを調整すればよいわけです。
一般的なオシロでは校正用信号(1KHz、0.5Vp-p、矩形波など)出力が装備されていますが、この機種はありません。

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写真3は周期性のあるパルス波を観測した例で、3サイクル分観測できるように同期させてみました。

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★LEADER LBO-310 HAM

LBO-310 HAMはその型番のとおりアマチュア無線用のオシロです。
これもブラウン管は75mmで、筐体が縦長なのでコンパクトに感じられます。
写真4のように正弦波のマイナスから掃引が始まっていますので、この機種もマイナス同期です。

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帯域はDC~4MHzなのですが、LBO-310 HAMの型番のとおりアマチュア無線用のオシロです。
写真5の背面パネルにM型コネクタが2個あり、これを利用して送信機とアンテナ間にオシロが接続され、送信波形をモニターすることができます。
また、音声信号の替わりに内蔵のシングルトーンまたはツートーン発振器の信号を利用することができます。
写真6は内蔵のシングルトーンを利用し、トランシーバIC-726SのAM変調波形を観測したもので、さすがにきれいな波形です。
写真7は自作送信機TX2014Aの波形です。
出力が約700mWしかないので、画面の波形が小さくなっています。

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★TRIO CO-1505

この機種はブラウン管が大きく、青緑蛍光色なので見やすいです。
筐体サイズは538A、LBO-310 HAMよりかなり大きいのですが、重量はそれほど重くなく5.2kgです。
帯域はDC~1.5MHzですが、校正用信号を内蔵しています。
この校正信号は電源周波数の矩形波です。
つまり、地域により50Hzか60Hzになります。
同期はプラス、マイナスを選択することができ、写真8ではプラスの選択なので波形のプラスから始まっています。

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以上、同期式オシロを3機種紹介しました。取扱説明書を見るとオールソリッドステートという文字があり、すべて半導体式です。

のこぎり波発生回路はどの機種もシンプルです。
ブレッドボードで組める回路規模なので、実験をしてみました。
図16のようにのこぎり波発生回路と制御回路をブレッドボード上に組み、さらに極性選択回路を追加して、LBO-310 HAMの外部掃引端子(H IN)に入力します。
写真9はその時の観測波形で、極性をプラス選択にしましたのでプラスから始まっています。

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ブレッドボード上に組んだのこぎり波と信号波を観測すると強制同期のイメージは図17のようになります。
信号波のレベルが小さい場合、のこぎり波発生回路は単独で発振しています。
ここで信号レベルを大きくすると、のこぎり波の周期が信号周期に吸い寄せられるイメージで同期します。
つまり、のこぎり波周期が信号周期に変化します。
この現象はお互いの周期が近い場合で、例えば、1KHzと1.3KHzなどのように離れた関係では起きません。

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普段、動作原理を考えながらオシロの操作をすることはあまりないと思います。
久しぶりに強制同期式オシロを操作してみて、アナログオシロの面白さ、良さが少し分かった気がします。

参考文献、資料

・LBO-310 HAM 取扱説明書

・538A 取扱説明書

・CO-1505 取扱説明書

・「新版オシロスコープの設計と取扱い」 藤巻 安次 著 誠文堂新光社 昭和45

・「これで分かったシンクロスコープの取扱い方」 宮本 義博 著 啓学出版 1984年

アナログ的測定器 第1回目

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